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第23回よこはまスポーツ整形外科フォーラム
抄録2015年(平成27年)5月31日(日)

【一般演題 1】(1〜6)

O-1-1.
Bristow 変法術後の CT を用いた骨癒合因子の検討について
柴山 一洋、岩噌 弘志、後藤 秀隆、深井 厚、眞田 高起、 笠原 靖彦、山神 良太
鹿毛 智文、内山 英司
関東労災病院スポーツ整形外科
【はじめに】当院では肩関節前方不安定症に対して、スポーツ種目に応じて、鏡視下 Bankart 修復術もしくは Bristow 変法を行っている。ラグビー、アメフトなどの collision sports には 積極的に Bristow 変法を行っている。良好な骨癒合により、早期復帰が期待できる他、術後疼 痛も少ない印象がある。しかし、骨癒合不良因子に関しての CT を用いたまとまった報告は現 在までない。そこで今回当院の Bristow 変法における、術後骨癒合不良因子の原因を解析した ので報告する。
【対象】2011 年 12 月から 2014 年 12 月までに行った、Bristow 変法 48 肩のうち、術直後、術 後 2.5 か月の CT 撮像がある 37 肩を対象とした。全例男性で、平均年齢 21.8 歳。術式は直視 下 Bristow 変法(掘り込み式)で同一後療法。評価項目は screw の長さ(glenoid 後壁 cortex に達していない short 群、達しているが突出していない good 群、十分に達している long 群)、 screw と glenoid の角度、骨切り部のギャップ、骨片の高さ、骨片の設置位置(設置角度、設 置位置)とし、術後 2.5 カ月の CT で骨片間の連続性があるものを union 群、ギャップが拡大し ているのを fibrous 群とし、ロジスティック回帰分析を行い、骨癒合不良群因子を解析した。
【結果】Short 群 9 肩、good 群 13 肩、long 群 15 肩で fibrous の割合は 6 肩、2 肩、0 肩であった。 ロジスティック回帰分析の結果は、screw の長さ、ギャップに有意差があった。 【考察】Bristow 術後の早期復帰の重要な要素に骨癒合が挙げられる。今回の研究で Screw の長 さ、骨片間のギャップが骨癒合因子に重要であることがわかった。
【まとめ】当院での Bristow 変法の術後骨癒合因子に関して報告した Screw の長さ、骨片間の ギャップが骨癒合不良因子と考えられた
O-1-2.
超音波検査が有用であった肩甲下筋損傷(Hidden lesion)の 1 例
岩本 航1)、塚原 由佳1) 、岡田 尚之1) 、松本 秀男2)
1)江戸川病院スポーツ医学
科 2)慶應義塾大学スポーツ医学総合センター
 診断に超音波検査が有用であった肩甲下筋損傷(Hidden lesion)の1例を経験した。症例は サッカーのクラブチームに所属する 39 歳の男性である。サッカー中に転倒し右肩を伸展強制さ れた。右肩前方の安静時痛・動作時痛が軽快せず、近医を受診した。単純X線では明らかな異 常は指摘されず、消炎鎮痛剤の内服など行い3ヶ月の経過観察をしていたが疼痛が軽快しない ため MRI で精査が行われた。MRI では、上腕二頭筋長頭腱が肩甲下筋に陥入する所見が確認 され Hidden lesion と診断され当院紹介受診となった。
 当院初診時に行った超音波検査では、MRI と同様に上腕二頭筋長頭腱が内側に変位し肩甲下 筋停止部上縁に陥入する様子が確認された。加えて陥入部での小結節からの剥離骨片や、腱周 囲の軟部組織の腫脹と水腫、パワードプラーによる腱周囲の明らかな血流増加も同時に確認が 可能であった。さらにエコーガイド下に陥入部に局所麻酔薬を注入する事で一時的な除痛を確 認できた。
 上腕二頭筋長頭腱の亜脱臼による肩甲下筋付着部上縁の損傷は、その病態の存在を知らなけ れば MRI で見逃される可能性も考えられる。本症例では、疼痛部位を中心に超音波検査を行う 事で損傷部の様々な情報が得られ診断に有用であった。仮に本病態の存在を知らない場合でも、 今回のような画像所見が確認できれば、なんらかの損傷が存在することを疑うことは可能であ ると思われた。
O-1-3.
テニスによる陳旧性上腕骨小結節剥離骨折の 1 例
大久保 敦
日本医科大学千葉北総病院 整形外科
 テニスにより生じた陳旧性上腕骨小結節剥離骨折の 1 例を経験したので報告する。
【症例】17 歳・男性。ソフトテニス中にラケットでボールを打った瞬間、右肩関節痛が出現し た。発症後 6 ヵ月にて当科紹介となった。初診時所見では、肩関節の安静時痛はなく運動時痛 のみを認めた。肩関節可動域は、挙上 160 度、外転 150 度、外旋 70 度、内旋は第 8 胸椎であっ た。徒手筋力テストは外転 4、内旋 4 と疼痛のため低下していた。単純 X 線撮影正面像および scapula-Y 像では異常所見を認めなかったが、軸写像にて上腕骨小結節部に骨片が認められた。 CT 撮影でも同様に小結節部の骨片を認めた。 MRI では、T2 強調画像水平断で肩甲下筋腱内 に腱内断裂を認め、T1 強調画像冠状断で小結節部に小骨片を認めた。陳旧性上腕骨小結節剥離 骨折および腱板断裂と診断し手術適応と判断した。手術は全身麻酔下側臥位で鏡視下に行った。 腱板断裂部は、スーチャーアンカーによる単層固定修復術を行った。術後はウルトラスリング による外固定を 2 週間行った。術後 2 日目よりリハビリテーション開始し、術後 3 ヵ月にテニ スを再開した。術後 9 ヵ月、疼痛は消失しパフォーマンスも 100%と問題なくテニスを行って いる。

上腕骨小結節裂離骨折は比較的稀な外傷である。陳旧性上腕骨小結節剥離骨折に対する手術方 法として、スポーツ選手に対しては低侵襲な鏡視下手術がより有用な方法であると考える。
O-1-4.
アキレス腱縫合術後のヒールレイズの推移
豊岡 青海
東芝病院 スポーツ整形外科
【目的】当院では術後早期の競技復帰を目標に、新鮮アキレス腱断裂に対して強固な縫合を行っ ている。早い筋力回復が早期の競技復帰につながると考え、術後のヒールレイズ回復の推移を 調査した。加えて年齢及び性別との相関があるか調査した。
【方法】対象は 2009 年から 5 年間に行ったアキレス腱縫合 103 例のうち、陳旧例などを除外し た 96 例(平均 40 歳(17 ~ 80)、男 72 女 24 例)。手術は内山の報告に準じて行った。1/2 ヒー ルレイズ(体重の 1/2 の挙上が可能)ができるまでの期間、片足ヒールレイズまでの期間、 MMT5(ヒールレイズ 20 回)までの期間、競技復帰までの期間を調査した。またそれぞれの 期間について年齢、性別との相関を調べた。
【結果】1/2 ヒールレイズは平均 8 週、片足ヒールレイズは 13 週で可能となり、21 週で MMT5 を獲得した後に 22 週で競技復帰となった。年齢、性別との相関は無かった。他の報告と比較し ても復帰時期は早く、年齢性別にとらわれなかった。
O-1-5.
長腓骨筋腱完全断裂の治療経験
朔 伊作1)、内山 英司2)、深井 厚2)、後藤 秀隆2)、山口 玲3)
1)自治医科大学さいたま医療センター整形外科
2)関東労災病院スポーツ整形外科
3)都立広尾病院整形外科
症例は 21 歳日本女子代表バスケットボール選手。練習中に右足関節内反位となり長腓骨筋腱新 鮮断裂を断裂した。足関節外側靭帯不全もなくステロイド注射の既往もない。ただし足関節の 形態が7度内反位であり腓骨筋腱に恒常的な過負荷が考えられた。
 アスリートによる長腓骨筋腱の皮下完全断裂の報告は極めて稀である。一次修復でも治癒可 能との報告もあるが、多くは修復が困難であることから腱移行の報告が多い。ただし腱移行は アスリートにとってパフォーマンスの低下を引き起こすことが危惧される。また単なる縫合で は十分な治癒が期待できないと考えられる。本症例はスポーツレベルが高いことや、足関節 内反位であることなどから、強固な固定が必要であり、また再断裂の危険性を回避すること が重要と思われた。そこで、陳旧性アキレス腱断裂に対し当科で行っている手術方法である Reversed-Free-Tendon-Flap 法を適応した。その結果8か月で所属チーム練習に復帰し1年6 か月後には完全復帰を果たしたので報告する。
O-1-6.
陳旧性後脛骨筋腱断裂に対し薄筋腱の移植を行い、スポーツ復帰を果たした 1 例について験
田原圭太郎1)、内山 英司2)、深井 厚2)、後藤 秀隆2)
1)東京大学病院整形外科
2)関東労災病院スポーツ整形外科
【はじめに】陳旧性のアスリートの後脛骨筋腱の皮下完全断裂は極めて稀である。今回我々は, 自家薄筋腱を移植し、表選手として良好な復帰ができた1例を経験したので報告する。
【症例】25 歳男性、某国代表バスケットボール選手。右足内側の疼痛に対し、3 年間にわたり数 回のステロイド注射の既往後、後脛骨筋腱の完全断裂が生じていた。
【手術所見】後脛骨筋腱の断裂は 6cm以上の変性欠損を認めたため薄筋腱を移植した。その方法 は薄筋腱を 2 重折りとし、遠位は舟状骨に作成した骨孔に挿入固定。近位は inter-racing とそ の部分を包み込むように縫合した。
【結語】本件はステロイド誘発性といえる断裂形態であり、変性欠損部が 6c m以上に及んでいた。 そのため自家薄筋腱を移植した。その結果 10 か月後バスケットボール練習に参加し、1 年 6 か 月時点では、代表選手に復帰し世界大会に出場した。 有用な手術法と考えられるので手術方法を報告する。

【パネルディスカッション 1】

P-1-1.
肩関節脱臼の診断 ~臨床所見と画像所見~
守重 昌彦
あんしん病院 整形外科
 肩関節不安定性を主訴に受診する患者の治療方針を決定するためには、病歴、身体所見、画 像所見の詳細な把握が必要である。まず初回脱臼の年齢、原因、自己整復の可否、脱臼回数、 現在の活動レベルなどを聴取する。これだけでもある程度の治療方針が立てられる。身体所見 では anterior apprehension test が一般的であるが、関節唇損傷の広がりや不安定性の方向を確 認するため SLAP 損傷や下方・後方不安定性に対する徒手検査を追加する。また、全身の関節 弛緩の程度も評価しておく。脱臼した状態で受診した場合は整復前に神経所見の異常の有無を みておく。整復後に異常に気付いた場合、それが受傷によるものか整復操作によるものなのか わからないからである。
 画像検査は単純レントゲンが手軽であるので最初に行うことが多い。しかし、正面、scapula Y、 軸写の一般的な 3 方向撮影では得られる情報は少ない。撮影法を工夫すれば Hill Sachs 病変の 有無、関節窩の形態把握は可能であるが、軟部組織の情報は得られず骨病変の定量もできない。 MRI では関節唇の状態をまずみるが、関節造影 MRI でなければ確認できないことも多い。下 垂位では確認しづらい前下関節上腕靭帯(AIGHL)は、ABER 位だと緊張し評価しやすくなる ので追加することが望ましい。HAGL 病変が存在する場合、手術の難度が上がるので術前のう ちに MRI で確認しておきたい。手術加療を行う場合は Hill Sachs 病変の大きさや関節窩骨欠損 の量で術式が変わり得るため定量のために 3DCT は必須である。
P-1-2.
保存療法と手術療法の適応
望月 智之
東京医科歯科大学 整形外科
  初回脱臼は一般的に保存療法の適応である。保存療法の有用性を判断するためには、3DCT 検査を用いて関節窩の骨形態を評価することが重要である。関節窩の骨形態が正常に保たれて いる症例や、骨性バンカート病変が存在しても転位のない症例に対しては、保存療法が有効だ と考える。
保存療法における固定肢位に関して、Itoi らは外旋位固定の有用性を報告している。その成 績については、種々の報告があるが、患者さんの了承が得ることが出来れば、試してみても良 い選択肢だと考える。
 初回脱臼においても、関節窩骨形態に大きな異常がある症例、特に転位がある骨性バンカー ト病変を認める症例は、保存療法では不安定性が残存し、スポーツパフォーマンスに大きな影 響を及ぼす可能性があるため手術療法の適応と考える。特にコンタクトスポーツ選手において 転位した骨性バンカート病変を放置することは、再脱臼の大きな危険因子となりうるので、鏡 視下バンカート法による修復が必須である。
 手術方法においては、関節窩骨欠損の少ない症例に対しては、バンカート法、欠損の大きい 症例に対しては烏口突起移行術を選択するのが一般的ではある。しかしながらコンタクトスポー ツにおいては、初回脱臼に対する烏口突起移行術の有用性も報告されており、議論がなされて いる。
P-1-3.
鏡視下バンカート修復術
米川 正悟、熊本 久大、渡邉 幹彦
大脇病院 整形外科
 反復性肩関節脱臼に対する鏡視下バンカート修復術は現在スタンダードな治療法の一つであ るが、その手術適応や合併症において今だ議論の余地がある。 反復性肩関節脱臼に対して我々は鏡視下バンカート修復術を第一選択としているが、collision sports の high demand 症例や loose shoulder、関節窩骨欠損の大きな症例には open の MICS や Bristow 法を行っている。
 手術法としては後方・前方・前上方の 3 ポータルで行っている。関節唇複合体を十分剥離し 関節窩を decortication して関節唇を縫合する。その際 AIGHT は十分に引き上げることに注意 しつつ右肩で 1 時の位置にもアンカーを挿入し SGHL と MGHL の付着部も固定している。
 Hill-Sachs lesion に対しては鏡視下に外転・外旋位で関節窩と engage する症例に Remplissage を行っている。RI closer を行う際には 30°外旋位で骨頭側よりで縫合している。 今回は我々の治療戦略を手術法の変遷を中心に報告する。
P-1-4.
烏口突起移行法
林 陸
横浜南共済病院 整形外科
タックル動作が要求されるコリジョンアスリートにおいては、再脱臼を確実に防止する安定性、 不安感の消失、更に早期のスポーツ復帰が求められる。これらの点を満足させる治療法として、 当院では直視下に烏口突起を移行する Bristow 変法を採用し施行してきた。
 Bristow 変法における烏口突起の設置は、共同筋腱を関節窩縁に強固に接着させる骨性アンカー の役割を考慮し、共同筋腱付着部の外側腱性部分を関節上腕靭帯-関節唇複合体(IGHL-LC) の関節窩側に模造させ、烏口突起と共同筋腱による IGHL-LC の再建を意図して行っている。 本術式の治療成績を報告する。対象は肩関節反復性脱臼 68 例 74 肩、全例男性でスポーツ種目 はラグビーであった。手術時平均年齢は 19.2 歳、術後平均経過観察期間は 20.7 ヶ月であった。 スポーツ復帰率は 100%、ゲーム復帰時期は術後平均 5.0 ヶ月で、再脱臼例は認められなかった。 外旋可動域の患健側差は First plane で 6.1°、Second plane で 4.7°だった。臨床成績の評価には JSS Shoulder Instability Score および JSS Shoulder Sports Score を用いて、それぞれ平均 94.6 点および 91.6 点であった。
 本術式のポイントは、烏口突起骨片の設置方法と骨癒合をいかに得るかであり、そのため関節 窩および肩甲骨頚部の展開を確実に行い、骨片設置位置を確保し骨癒合を向上させるため骨溝 を作成することである。

【教育講演 ( ランチョンセミ ナー )】

 
流行の筋力トレーニングと生理学的考察~
谷本 道哉
近畿大学生物理工学部
近年、体幹トレーニングやインナーマッスルなどが注目されているが、そこには少なからず誤 解がある。フロントブリッジやダイアゴナルなどの体幹固定やそこにバランス要素を含むトレー ニングが広く行われているが、このような方法による体幹筋群強化の効果は高くない。インナー マッスルに関しては「軽負荷でなければ鍛えられない」、「バランストレーニングでインナーは 強化される」などのイメージに基づいた誤った認識が多い。
今日行われる体幹トレーニングは、「四肢の運動課題において体幹筋群の活動が事前に高まる」 ことから、四肢の土台としての体幹固定の重要性が着目されるようになったことがその源流と なっているようである。体幹固定の感覚を体得するための運動処方といった位置づけになるが、 それ以上の効果を信じて導入されていることが多いようである。 インナーマッスルとは深部に位置する筋を指すが、深部筋には関節回転軸近くに停止する、つ まり筋のモーメントアームの短いものが多い。その解剖学的特性から、関節運動を起こす作用 (モビリティ)より関節の回転軸を安定させる作用(スタビリティ)が強くなる。スタビリティ 作用を受け持つ筋は、関節運動の自由度の高い肩関節、股関節、脊柱の関節周辺に存在する。
スタビリティ作用が主となるインナーマッスルも高負荷をかけるほど動員率が上がることが筋 電図分析で明確に示されている。また、バランス動作は主にモビリティの調整により行うこと から、バランストレーニングでスタビリティのインナーマッスルが強化できるとは考えにくい。 バランスの安定と関節回転軸の安定は別物であるが混同されていることが多い。 本講演では、生理学・解剖学的視点からこれらのトレーニングの意義と位置づけ、有効な活用 法を考察していきたい。

【所属・プロフィール】
近畿大学生物理工学部准教授。
日本オリンピック委員会医科学スタッフ。日本ボディビル連盟医科学委員。 大阪大学工学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。
国立健康・栄養研究所 特別研究員、東京大学 学術研究員、順天堂大学 博士研究員、近畿大学 講師を経て現職。
専門は筋生理学、身体運動科学。 著書に「スポーツ科学の教科書」(岩波書店)、「筋トレまるわかり大事典」(ベースボール・マ ガジン社)、「スロトレ」(高橋書店)など多数。 

【一般演題2】(7〜11)

O-2-1.
前十字靭帯再建手術における冷却灌流液使用の検討-退院までの短期成績
井本光次郎、内山 英司、鹿毛 智文、柴山 一洋、笠原 靖彦、
眞田 高起、深井 厚、後藤 秀隆、岩噌 弘志
関東労災病院スポーツ整形外科
【はじめに】ACL 再建術において冷却灌流液使用を検討した報告はこれまでにない。本研究は、 ACL 再建術中、関節内灌流液に冷却水を使用することで、入院期間中の術後経過に及ぼす影響 を評価することである。
【方法】ACL 再建は同一術者により解剖学的 2 重束再建が行われた。関節内冷却群と常温の対 照群に分け、冷却群の灌流液は 4°Cに設定した冷蔵庫にて術前日から十分に冷却し、対照群は 常温にて準備した。灌流液は症例ごとに冷却群、対照群を交互に使用し、前向き調査を行った。 調査は 2014 年 12 月から 2015 年 3 月までとし、40 症例 40 膝(冷却群 20 症例、対照群 20 症例) を評価した。検討項目は、術翌日および 1 週後の VAS 値、術前と 1 週後の Hb 差、1 週後の CRP、膝屈曲 90°、110°獲得までの期間、松葉杖 OFF までの期間とした。統計処理は、Mann- Whitney の U-test による 2 群間の比較を行い、p<0.05 を統計学的有意とした。
【結果】術翌日および 1 週後の VAS 値、術後 1 週の Hb、CRP 値において、冷却群と対照群で 差は認めなかった。松葉杖 OFF までの期間、膝屈曲角度 90°達成期間は冷却群で統計学的に有 意に減少したが(p = 0.013, p = 0.035)、110°獲得までの期間には有意な差は認めなかった(p = 0.126)。
【考察】ACL 再建術における術中冷却還流液の使用は術後の疼痛には影響を及ぼさないが、術 後の可動域獲得や歩行の改善に有効であるかもしれない。
O-2-2.
外側半月板後外側部損傷の診断と治療方針
- Forced knee flexion test による診断と all-inside repair
林 将也、荻内 隆司、吉村 英哉、島谷 雅之、初鹿 大祐、
森尾 秀徳、井坪 広樹、猪野又 慶、新谷 尚子、星野 明穂
川口工業総合病院 整形外科
外側半月板(LM)後外側部、すなわち膝窩筋腱裂孔近傍部の損傷には、半月板実質に断裂が ある場合と、半月板実質には断裂が無く関節包との結合(popliteomeniscal fascicles)に損傷や 先天的異常が存在する場合があり、後者は hypermobile lateral meniscus(HLM)とも呼ばれる。 いずれも膝窩筋腱裂孔の存在により MRI による画像診断には限界があり、詳細な病歴の聴取と 理学所見の採取が不可欠である。今回われわれは、LM 後外側部損傷の診断に有用と思われる 理学所見とこれらの損傷に対する当科の治療方針とその短期成績について発表する。 靱帯損傷を合併しない半月板単独損傷症例で損傷が LM 後外側のみにとどまる 6 膝を対象と した。主訴はいずれも深屈曲時の膝後外側部の引っかかりであった。McMurray test にて click (+) は 1 膝、pain (+) は別の 1 膝のみであった。患側膝の強制屈曲時に不安感を訴えるものを forced knee flexion test 陽性と定義し、5 膝で陽性であった。最大屈曲に対する不安感もあり健 側に比して 10 度以上屈曲制限を認める例が 4 膝存在した。いずれの例も麻酔下では屈曲制限は 消失した。
治療は関節鏡視下に損傷部位の診断を行い、半月板実質部損傷、HLM のいずれに対して も all-inside repair を行う方針としている。膝窩筋腱裂孔前方の半月板実質損傷に対しては Meniscal Viper を用い、半月板と関節包との結合部異常については FAST-FIX 360 を用いて修 復を行っている。全例術後 6 ヶ月以上を経過し deep squat を許可しているが、症状の再発は認 めていない。
Forced knee flexion test の有用性については今後症例数を増やし検討する必要があるが、画 像診断が困難な LM 後外側部損傷の診断の一助になる可能性があると考えている。
O-2-3.
骨端線閉鎖前の膝前十字靭帯断裂に対する適正手術時期の再検討
鹿毛 智文、内山 英司、岩噌 弘志、後藤 秀隆、深井 厚
眞田 高起、笠原 靖彦、山神 良太、柴山 一洋
関東労災病院 スポーツ整形外科
【目的】骨端線閉鎖前の膝前十字靭帯(以下 ACL)再建術は手術に伴う骨端軟骨板の損傷に よる骨成長障害のリスクがあると言われており、手術時期については、両親の身長、growth spurt の時期、X 線評価、MRI 評価などを指標に検討されてきた。今回我々は骨端線未閉鎖の ACL 断裂で手術を待機した症例について、待機が適切であったかどうか再検討を行った。
【対象】当院で 2012 年から 2014 年に ACL 再建術を行った症例の中で、男性 15 歳以下、女性 14 歳以下の症例を検討した。症例は 47 例(男性 11 例、女性 36 例)であり、その中で手術待 機した症例は 9 例であり、待機前と待機後の身長を追跡できた症例は 7 例であった。
【結果】上記7症例の待機前と待機後の身長差は平均 0.57cm(最小 0cm、最大 3cm)であった。
【考察】一般に MRI の T2 強調像で骨端線に高信号域が残存している場合を骨端線未閉鎖と考 えられており、特に脛骨側に残存している症例で当院では待機を行ってきた。手術待機はその 間の成長を見越して行ったが、今回の検討では予測に反して身長の伸びは少なかった。その理 由として、MRI 評価を優先して待機の要否を決定していたことによる影響が考えられた。 以上より、MRI 上は骨端線が残存している症例でも、成長曲線などその他の指標を参考の上、 成長が見込みずらい症例には待機なく手術を行っても問題にならないと考えられた。 
O-2-4.
ラグビートップリーグ選手の膝内側側副靭帯(MCL)損傷に対する 高気圧酸素療法(HBO)の経験
後藤 和海、豊岡 青海、増島 篤、武田 秀樹
東芝病院・スポーツ整形外科
【目的】ラグビートップリーグ選手に生じた膝内側側副靭帯(MCL)損傷に対し高気圧酸素療 法(HBO)を行った結果を調査し検討すること。
【方法】2006 ~ 2014 年の 9 年間で膝 MCL 単独損傷を受傷し当院で高気圧酸素療法を行ったラ グビートップリーグ選手のうち、MRI 評価を行った 11 名 15 例に関して受傷から競技復帰まで の期間等を調査した。
【結果】Fetto 分類において Grade 1 が 4 例、Grade 2 が 8 例、Grade 3 が 3 例であった。HBO の平均回数は 6.6 回(3 ~ 11 回)、受傷から競技復帰までは Grade 1 が平均 7.25 日(3 ~ 10 日)、 Grade 2 が平均 27.1 日(9 ~ 49 日)、Grade 3 が平均 53.0 日(31 ~ 77 日)であった。
【考察】競技復帰までの期間は重症度に相関した結果となった。先行研究と比較し、HBO 施行 群では比較的早期に競技復帰可能となる傾向がみられた。
O-2-5.
大腿四頭筋腱を用いた後十字靱帯再建術の小経験
武冨 修治、乾 洋、田原圭太郎、白川 展之、山神 良太、眞田 高起
東京大学 整形外科
手術を要する膝後十字靱帯(PCL)損傷は複合靱帯損傷を伴うことが多く、再建術の際に移植 腱の選択に困ることがある。本邦では膝屈筋腱を用いた PCL 再建術が広く行われているが、膝 蓋腱や大腿四頭筋腱(QT)も移植腱として選択肢になりうる。我々は PCL 単独再建術の際は 膝屈筋腱を移植腱として使用しているが、内側支持機構や外側支持機構の再建を同時に行う際 はこちらに膝屈筋腱を用い、PCL は QT を用いて再建している。
本発表では QT を用いた PCL 再建術を紹介する。QT を用いた PCL 再建では脛骨の付着部中 心に 1 つの骨孔を、大腿骨付着部に 2 つの骨孔を作成し、脛骨骨孔に骨片が入るように移植腱 を挿入する。QT は片端に骨片をつけて採取可能なだけでなく、採取する長さの制限が少ない ため、比較的関節内長の長い PCL 再建術に使用しやすい。さらに採取した QT は深層と浅層の 2 層に分けられるため、1 本の腱の採取で 2 重束での再建に対応できるうえ、膝蓋腱や膝屈筋腱 に比べ、太さも確保しやすい。患側 QT を採取することで健側からの腱採取を要さないことも 利点の 1 つである。今後、術後安定性、膝伸展筋力の回復、膝前面痛など臨床成績を観察する 必要がある。

【特別講演】

 
スポーツドクターへー道  ー若きスポーツドクターにのぞむことー
増島 篤
東芝病院 スポーツ整形外科
東芝病院スポーツ整形外科は、1989 年 3 月に開設された。スポーツ選手、スポーツ愛好家ある いはスポーツを始めようとする方々を対象として、臨床スポーツ医学の中の整形外科分野を担 当する科として診療を行っており、東芝のスポーツ選手はもちろん、その他の多くの社会人、 学生、スポーツ選手が受診している。

1.東芝病院での診療
1989 年 3 月から 2013 年 12 月までの新患登録患者総数は 18,369 名であり、手術総件数は 5,997 件であった。5,997 件中、膝前十字靭帯再建術は 1,741 件であった。その術式は、1989 年から 1993 年 9 月までは、腸脛靭帯を用いた2重支持再建法(120 件)、1993 年 10 月からは半腱様筋 腱、薄筋腱を用いた ST/G 法に変更し、2011 年 6 月からは症例に応じて ST/G による二重束再建、 BTB 法等を行っている。膝前十字靭帯損傷で問題となるのは、発育期の損傷例であるが、私見 として、手術的治療の適応年齢を 15 歳以上(中学 3 年夏休み以降)としている。逆に中高年の 損傷例に対しては積極的に手術を行い、70 歳以上の 3 例、4 膝の手術後の経過も良好である。 2005 年 12 月より東芝病院に高気圧酸素治療装置(8 名定員の第 2 種装置)が導入された。東 芝強化スポーツチームのラグビー、野球、バスケットボールの選手を中心に急性外傷からの早 期復帰を目的として積極的に治療を行っている。現状ではスポーツ外傷は高気圧酸素治療の保 険適応とはなっていないために、自費診療で行っているが、スポーツ外傷にかぎらず、整形外 科領域においても今後の活用が大いに期待できる治療法で
ある。

2.スポーツ整形外科的メディカルチェック
1985 年中嶋寛之先生が「スポーツ整形外科的メディカルチェック」という概念を示された。 運動器がスポーツ活動をするために十分な機能を果たしうるかどうかをチェックし、外傷・障 害の予防に役立たせようというのが目的である。また、機能的あるいは器質的に不十分な場合 にはその運動器に負担とならないような範囲で、あるいは負担とならないような運動内容を指 示するためのチェックでもある(臨床スポーツ医学 2:1985)。この概念に基づいて高校女子バ スケットボール選手の膝前十字靭帯損傷の調査を行い、膝前十字靭帯損傷と全身関節弛緩性と の関連が示唆された。近年でも非接触型膝前十字靭帯損傷の危険因子のひとつとして全身関節 弛緩性が注目されている。同様の調査を東芝強化スポーツチーム(全例男性:野球、ラグビー、 バスケットボール)にも行ってみたが、ここでは野球の野手に関して「関節のやわらかさ」が外傷・ 障害(特に肩・肘関節の外傷・障害)の少ないことと結びついた。この結果は全身関節弛緩性 が外傷・障害の危険因子としてのみでなく、競技によっては、危険予防因子となることを示唆 した。

3.スポーツ現場での活動
1988 年のソウルオリンピックから、2008 年の北京オリンピックまで計 6 回のオリンピックに 帯同ドクターとして参加することができた。2000 年 9 月、当時の文部省によるスポーツ振興基 本計画に基づき、日本オリンピック委員会は 2001 年 JOC ゴールドプランを作成した。オリン ピック選手に対する医・科学サポートはこのゴールドプランに基づいて行われている。2001 年 10 月より国立スポーツ科学センターが開設され、2008 年 4 月より、国立スポーツ科学センター 36  に隣接して、ナショナル・トレーニングセンターが設立された。 2020 年には東京オリンピック・パラリンピックの開催も決定している。トップ・アスリートに 対する医・科学サポートのハード面での充実は目をみはるものがある。今後はこのハード面を 実際に活用するための人材養成をふくめたソフト面の充実が求められている。 4.これからのスポーツ医療 トップ・アスリート、一般スポーツ選手に対する医・科学サポート、スポーツ外傷・障害に 対する診断と治療に関しては、この 20 年間において数多くの知見の蓄積、ハード面の充実がな されてきた。しかしながら、1985 年に中嶋寛之先生が示されたスポーツ整形外科的メディカル チェックの後半部分「機能的あるいは器質的に不十分な場合にはその運動器に負担とならない ような範囲で、あるいは負担とならないような運動内容を指示するためのチェックでもある」 が今後の課題として残されている。この 20 年間のスポーツ医学の蓄積を中高年の健康スポーツ のみでなく、発育期の子供たちまで含めた、幅広い年齢層に活用していくことが求められている。 

【パネルディスカッション 2】

P-2-1.
保存治療と術後リハビリにおいて競技復帰を阻害する要因について
箕山 理
箕山クリニック
若年者の膝スポーツ外傷のうち、半月損傷は遭遇頻度が高い疾患である。その中で、外側半月 損傷の治療は内側半月損傷治療に比べて難渋する例が多く、おそらく多くのスポーツ医療関係 者が抱える問題であろう。
これまでの演者の臨床経験では、保存治療、術後リハビリ、いずれの場合も順調に問題なく早 期復帰できる症例と、加療中に関節水腫を繰り返すことで完全復帰が長引く症例とにはっきり 分かれてしまう印象がある。損傷部位なのか損傷度の差なのか、勿論これらも要因と考えられ るが、調査を行ったところ、それ以外のことにも気が付いた。
競技復帰が困難になる半月損傷例では、加療時すでに、もしくは加療中に、伸展可動域制限や 内側広筋の萎縮をきたしていた。損傷後の炎症による関節内水症発生時に、大腿四頭筋、とく に内側広筋の筋力低下や伸展可動域制限をきたさないよう留意すべきだが、一旦そのような状 態になると、運動再開でまた水腫を再発させ、悪循環に陥ると考えられる。復帰には筋力・パワー の改善が重要であることは当然だが、悪循環に陥った症例では、その改善がうまくいかなくな り完全復帰に難渋する。
今回、保存治療、術後リハビリを行った症例を調査したので、これらのことについて検討して みたい。 
P-2-2.
外側半月損傷に対する鏡視下切除術後のスポーツ復帰について
金 勝乾、亀田 壮、野沢 雅彦
順天堂大学医学部附属練馬病院 整形外科・スポーツ診療科
  【目的】外側半月損傷に対する鏡視下切除術後のスポーツ復帰時の時期と関連する項目について 検討を行うこと。
【対象と方法】靱帯損傷のない外側半月損傷に対して関節鏡視下切除を行いスポーツ復帰まで経 過観察できた症例で 40 歳未満の Tegner activity score が 7 以上を対象とした。円板状半月は 除外した。症例は 33 例 34 膝、男性 31 膝、女性 3 膝であった。手術時年齢は平均 21.1 歳、経 過観察期間は平均 10.2 ヵ月であった。
【結果】手術から元のスポーツへの復帰までの期間は平均 61.0 日(95%CI: 50.2-71.8)であった。 手術時年齢と復帰期間に相関がみられ年齢が若いと復帰期間が短かった(r=0.38、p<0.05)。 Tegner score が 9 以上の群と 8 以下の群に分けると 9 以上の群で平均 51.4 日(95%CI: 42.1- 60.8)、8 以下の群で 76.4 日(95%CI: 52.9-99.9)と有意差があった(p<0.05)。損傷形態や切除量 と復帰期間には有意差はなかった。スポーツに復帰後も 20 膝(59%)に疼痛や水症がみられた。 復帰後疼痛が再発し再手術を行った症例が 4 膝(12%)あった。
P-2-3.
外側半月損傷に対する半月縫合手術
前 達雄、中田 研、米谷 泰一、武 靖浩、下村 和則、吉川 秀樹
大阪大学整形外科
 スポーツ外傷において、外側半月損傷は頻度の高い疾患である。 損傷半月に対する治療としては、半月板への血行を考慮して、外周での縦断裂は半月縫合術が、 それ以外の断裂に対しては切除術が一般的に選択される。
しかし、切除術後は変形性関節症性変化をレントゲン画像にて認めることから、我々は縫合可 能な症例には、tie-grip suture などの工夫を施した縫合術も選択肢の一つとして行なっている。 ところで、前十字靭帯損傷に合併した半月損傷に対する縫合術は、靭帯再建時に骨孔を作製す るため、骨髄血による半月修復が大いに期待できるが、半月単独損傷においては、修復に必 要な成長因子や細胞侵入が少ないため、縫合部の治癒促進を期待して、自己血から作製した fibrin clot を挿入している。
また、円板状半月損傷に対しても、体部の変性が少ない症例には縫合術を選択し、良好な成績 を報告している。 長期経過については今後の課題であるが、複雑な半月損傷に対しても、半月縫合術は選択肢の 一つとなり得ると考える。
P-2-4.
逸脱半月板に対する手術治療
古賀 英之、宗田 大
東京医科歯科大学大学院運動器外科学
外側半月板(LM)の外方への逸脱は hoop 機能の破綻を意味し、変形性関節症(OA)の進行 や OA 患者の膝痛と相関があると報告されている。
我々は外側コンパートメントの OA もしくは LM 切除術後の症例で、LM の中節に 3 mm 以上 の逸脱を生じており、LM の機能不全が原因で OA や軟骨損傷を来たしていると考えられるも のや、初回手術でも解剖学的修復が不可能な LM 逸脱例、円板状半月例に対して、逸脱した半 月板を膝窩筋腱裂孔のすぐ前方でアンカーを用いて内方化させる鏡視下 Centralization 法を開 発した。その良好な短期成績をうけ、現在では内側半月板の逸脱や、後根部断裂や放射状断裂 で解剖学的に修復が可能であっても半月板の変性があり縫合のみでは強度が不十分と考えられ る症例、半月板消失例に対しても同法を施行している。
本発表では centralization 法の手技、適応及びその短期成績について述べる。

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